賃貸における火事|入居者が負う大家への責任や火災保険について解説

賃貸で火事が発生して近隣へ火が燃え移った場合、入居者は重大な過失によって失火した場合を除き賠償責任が発生しません。ただし大家に対しては、原状回復義務の債務不履行により重大な過失がなくても損害賠償責任を負う必要があります。

当記事では、賃貸で火事が起こった場合の入居者の責任や、火事が起こったときの大家の対応、入居者・大家向けの火災保険について解説します。火事が起こった場合の責任の範囲や、火災保険の重要性を知りたい方はぜひ参考にしてください。

 

1.賃貸で火事が起こった場合の入居者の責任は?

建物の火災はさまざまな原因で起こります。揚げ物をしていて油が発火したりストーブで洋服を乾かしていて火がついて燃えたりと、日々の生活の身近な行動が火事につながるケースも少なくありません。アパートやマンションなどの賃貸物件で火事を起こしてしまった場合、入居者は過失の度合いによっては近隣に対する責任を負うこともあります。

ここでは、近隣と大家に対して入居者が負う責任について解説します。

 

1-1.近隣に対する責任

失火法(失火責任法)では「火事を起こしても、基本的に失火者は損害賠償責任を負わない」としています。仮に賃貸物件で火災を起こして近隣の部屋まで燃え広がったとしても、重大な過失によって失火した場合を除き、入居者は賠償責任に問われません。

出典:e-Gov法令検索「明治三十二年法律第四十号(失火ノ責任ニ関スル法律)」

日本には木造建築物が多く、ひとたび火事になると延焼で大規模な損害が発生しやすい状況です。失火者に賠償責任を負わせると経済的に破綻しかねないため、失火法は失火者保護を目的として制定されたと言われています。

過去には、以下のようなケースが「重大な過失」と判断されました。

  • 石油ストーブがついている状態で給油し、タンクの蓋をきちんと閉めずに収納して石油が漏れて着火
  • 寝たばこによる出火
  • てんぷら油を火にかけたままキッチンを離れ、油の過熱により出火

出典:徳島市「失火責任法(失火の責任に関する法律)について」

ただし、火災の状況はケースごとに異なるため、類似の状況でも重大な過失と判断されない場合もあります。

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1-2.大家に対する責任

賃貸物件で火事を起こした場合、重大な過失がなければ近隣住民への賠償責任は発生しないものの、大家に対してはたとえ重大な過失による失火ではなくても賠償責任が発生します。

入居者は賃貸を借りるときに賃貸借契約を結びますが、この中には「原状回復義務」が含まれています。原状回復義務とは、入居者が退去する際、部屋を借りてから生じた損傷を回復する義務のことです。

原状回復義務の債務が履行されなかった場合は、債務不履行によって損害賠償責任を負うことになります。債務不履行による損害賠償責任は失火責任法の適用を受けられないため、入居者は自己負担で部屋を修繕するか、大家に損害賠償する必要があります。

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2.賃貸で火事が起こったときの大家の対応

大家にとって、入居者の部屋で起こる火災は大きなリスクです。火災トラブルによる損害額を少しでもカバーするためには、適切な対応を取る必要があります。

ここでは、所有する賃貸物件で火事が起きた際に、大家が取るべき対応について解説します。

 

2-1.火災保険・家財保険の内容を確認する

まずは、入居者が火災保険(借家人賠償保険)や家財保険に加入しているかどうか、加入している場合はどのような補償内容かを確認しましょう。加入していれば、大家への損害賠償は入居者の保険でまかなわれます。

通常、賃貸借契約では締結の条件として火災保険への加入が必須となっていることがほとんどです。入居者が更新を怠り火災発生の時点では未加入になっている場合は、大家が加入している火災保険を使うことになります。

 

2-2.入居者の契約解除の手続きをする

賃貸物件が焼失すると住む部屋そのものがなくなるので、賃貸借契約は終了します。部分的に焼失して部屋にはどうにか住める場合でも、大家は入居者に対して契約解除の申し入れが可能です。

入居者には善管注意義務があります。善管注意義務とは「善良な管理者としての注意義務」の略称で、「通常払うべき注意を怠らず、大切に扱う義務」といった意味合いです。故意ではなくても火災を発生させたことは善管注意義務違反にあたり、大家は信頼関係が破壊されたとして契約解除の申し入れができます。

仮に、契約解除申し入れ後も入居者が部屋に居座った場合は不法占拠にあたるため、法的手段を取ることになります。

 

2-3.損害賠償請求の準備・請求をする

入居者が加入している保険があれば、加入先の保険会社に連絡を取って損害賠償請求について相談しましょう。入居者が保険契約していなかったときは、大家が加入している保険でまかなうことになります。自身が加入している保険会社に連絡を取りましょう。

 

2-4.入居者募集に向けた今後の対応をする

保険会社への相談を進める一方で、火災に遭った物件への対応も必要です。一部が焼失した場合は建物や部屋の修繕・リフォームが必要になるので、業者に相談して依頼先を決めましょう。

建物が全焼した場合は、土地の再活用法を検討する必要があります。土地の活用方法としては、以下のような方法が挙げられます。

  • 賃貸物件を再建設する
  • 駐車場やコインランドリー、貸農園など別の経営に切り替える
  • 土地を売却する

土地の活用方法は賃貸経営以外にもさまざまあり、かかる手間や収益性が異なるためよく検討して決めましょう。

 

3.【入居者向け】賃貸での火事に関する火災保険

賃貸物件に入居する際は、契約時に火災保険への加入を求められるケースがほとんどです。一般に、入居時に入る火災保険には「家財保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」がセットになっています。

ここでは、それぞれの保険の概要について解説します。

 

3-1.家財保険

家財保険の補償対象となるのは、家財全般です。家財は契約時に持ってきたもの全般を含み、冷蔵庫やタンスといった大型家電・家具だけでなく洋服やカバンなども該当します。

家財保険は、火災だけでなく落雷や台風などの自然災害によって被害を受けたときも補償の対象です。ただし、地震によって起きた火災や津波による損害には適用されないので別途地震保険への加入も検討しましょう。

出典:東京海上日動「【火災保険】地震や津波による損害は、火災保険で補償されますか?」

 

3-2.借家人賠償責任保険

借家人賠償責任保険は、借りている部屋で火災を起こし、大家から損害賠償金を請求された際に補償する保険です。火災だけでなく、漏水で建物に被害を与えて大家に損害賠償する場合なども補償が行われます。

火災や漏水によって被害を与えた場合は損害賠償額が高額になり、自費では払いきれない可能性があるため、借家人賠償責任保険への加入が必要です。

出典:日新火災海上保険株式会社「借家人賠償責任」

 

3-3.借家人賠償責任保険

入居者が近隣住民などに損害を与えた場合に、賠償金を補償する保険です。たとえば、失火して隣の部屋の家財を損壊したり、風呂の湯を止め忘れて階下の部屋に水漏れ被害を与えたりするケースが該当します。

補償の対象となるのは、部屋内での過失や事故による被害だけではありません。自転車に乗っていて歩行者をはねて怪我を負わせたり、子どもが他人の所有物を壊したりした場合も補償されます。

出典:日本損害保険協会「個人賠償責任保険」

 

4.【大家向け】賃貸での火事に関する火災保険の特約

大家が火災保険に加入する場合、施設賠償責任や家具補償などの特約をセットにすることが一般的です。

ここでは、大家が火災保険加入時にセットで契約することが多い特約を紹介します。なお、特約の名称は保険会社によって異なるため、記事内では一般的な名称を使用しています。

 

4-1.施設賠償責任特約

貸している建物や設備の不備が原因で入居者や歩行者が被害を受け、賠償責任を負った際に補償される保険です。たとえば、建物の外壁が崩れて落下し歩行者が怪我を負ったり入居者の車などの所有物が破損したりした場合が当てはまります。

出典:厚生労働省「施設賠償責任保険」

 

4-2.家賃補償特約

貸している物件で火災などが起きて入居人が住めなくなり、大家の家賃収入がなくなった場合に一定期間補償される保険です。補償が受けられるのは、3か月・6か月・12か月など、契約時に設定した保険金支払対象期間に限ります。

出典:東京海上日動火災保険「家賃補償特約」

 

4-3.家主費用特約

所有している賃貸物件で事故が起きて発生した家賃の損失を補償する保険です。たとえば、貸している部屋で小火が起きたり、入居者が孤独死・自殺したりした場合、原状回復や遺品整理などで多額の費用がかかります。

事故物件では次の入居者がなかなか決まらず、長期にわたって空室が続いて家賃収入が得られないケースも珍しくありません。やむを得ず、相場から大幅に安い家賃で貸し出すこともあるでしょう。

家主費用特約は、上記のような事故によって大家が被った損失をカバーします。

出典:三井住友海上「【火災保険】家主費用特約とは何ですか?」

 

まとめ

日本には失火責任法という法律があるため、入居者は重大な過失がなければ近隣に対する賠償責任を負いません。ただし、大家に対しては賃貸借契約時に交わした原状回復義務の債務不履行により重大な過失がなくても損害賠償責任を負うことになります。

賃貸で火事が起こった場合、大家側はまず入居者や自身が加入している火災保険・家財保険の内容を確認しましょう。保険会社への相談を進める一方で、入居者募集に向けた建物や部屋の修繕・リフォーム、土地の再活用も検討しましょう。

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