火事があった賃貸物件では、告知義務があるかどうかに悩むケースが多く見られます。過去に起きた火事でも心理的瑕疵として扱われる可能性が高く、その事実を隠して取引した場合には、訴訟やクレームの対象となる恐れもあります。特に死亡事故を伴う火事であれば、資産価値にも大きな影響が及ぶため慎重な対応が求められるでしょう。
当記事では、火事があった賃貸物件の告知事項や物理的・隠れた瑕疵、契約後に発生した火事の責任範囲など、実務に役立つ内容を解説しています。事故物件の売却を考えている方や、不動産取引のリスクを理解したい方は、ぜひ参考にしてください。
1. 火事があった賃貸物件は告知が必要?
火事があった賃貸物件には、たとえ過去の出来事であっても原則として告知が必要です。「告知事項あり」とされる情報には、物理的な欠陥だけでなく、心理的な影響を及ぼす事実も含まれます。
ここでは、そもそも告知事項とは何か、火事のあった物件に告知が必要な理由について詳しく解説します。
1-1. そもそも「告知事項あり」とは
「告知事項あり」とは、所有する物件において借主や買主に対して事前に伝えるべき重要な情報があることを意味します。具体的には、建物内で火災や死亡事故があった場合、借主や買主の意思決定に大きく影響を及ぼすと判断される事実が該当します。
告知事項ありの物件は、一般的に「事故物件」や「訳あり物件」と呼ばれ、通常の物件とは区別して扱われるのが通例です。物件自体に機能的な欠陥がなくても、過去の出来事が心理的な影響を与えると考えられる場合は、心理的瑕疵として「告知事項あり」の対象になります。
心理的瑕疵とは、物件の機能や構造に欠陥がなくても、過去の出来事により心理的な抵抗を感じる事象のことです。典型例としては、自殺や事件、または火災による死亡事故などがあげられます。借主や買主にとって、心理的瑕疵があることを知った上で契約をするかどうかは大きな判断材料になるでしょう。
宅地建物取引業者や貸主、売主は、告知事項に該当する情報を隠すことなく正確に伝えることになっています。
1-2. 過去に発生した火事は心理的瑕疵に該当する
所有する物件で火事が発生していた場合、過去のものであっても借主や買主に告知する必要があります。火災の事実自体が借主の心理に大きな影響を及ぼす要素と考えられているためであり、特に死亡事故を伴う場合には重大な心理的瑕疵として扱われる可能性が高いでしょう。
火事の事実を重要事項として告知せずに貸し出したり売却したりした結果、借主や買主が後から過去の火災を知り、訴訟に発展することも十分に考えられます。現代はSNSや不動産情報サイト、報道の記録が残るため、過去の火災が数十年前であっても情報を完全に隠すことは困難です。
こうした背景を踏まえると、貸主や売主が事実を適切に開示し、不動産会社の協力を得ながら誠実に対応することが、信頼される取引の鍵を握ると言えるでしょう。
1-3. ボヤの場合も告知が必要?
ボヤのような小規模な火災であっても、心理的瑕疵に該当する可能性があるため告知が必要です。たとえ建物に大きな損傷がなかったとしても、「以前に火が出た物件」として周囲から認識されることは珍しくありません。
そのため、貸主や売主が「軽微な出来事だから」と判断して告知を省略するのは、訴訟に発展するなど後のトラブルにつながる恐れがあります。日本では木造建築が多く、火災に対する恐怖感が強く根付いているため、借主や買主がボヤの事実を重要視するのは自然な感情と言えるでしょう。
少しでも火が出た形跡がある場合には、迷わず不動産会社に報告し、誠実に情報を開示することが望ましい対応です。
2. 火事があった賃貸物件の売却価値は下がる?
火事があった賃貸物件は心理的瑕疵物件と見なされる可能性が高く、売却時には売却価格が下がる傾向にあります。
死者が出ていない場合には心理的な抵抗感が比較的軽いため、相場より20~30%ほど価格が下がると言われています。一方で、火災によって人が亡くなっている場合には、心理的瑕疵がより深刻と見なされ、資産価値が50%前後まで下がる場合もあるでしょう。
ただし、被害の程度や地域、築年数などの要素によって価格への影響度は異なります。ボヤ程度の軽微な火災であれば、リフォームを施すことで相場に近い価格での売却が可能になることもあります。建物を解体して更地として売却する場合も、事故物件として記録が残る以上は心理的瑕疵の影響を受ける点に注意が必要です。
3. 売買契約完了後に火事が発生した場合の責任は?
不動産の売買契約を締結した後に火事が発生した場合でも、引渡しが完了していなければ原則として売主の責任となります。これは、多くの売買契約書に「引渡し前の滅失・損傷」条項が盛り込まれているためです。
不動産売買契約における「引渡し前の滅失・損傷」とは、契約締結後から物件の引渡し前までの間に発生した、自然災害や事故などによる建物の損壊や消失を指します。たとえば、台風による浸水、地震による倒壊、火災事故発生による焼損などが典型例です。
この期間に物件が損傷・滅失した場合、原則として売主がその責任を負うことになります。なぜなら、売買契約が成立した時点で、売主には「引渡し義務」とともに「物件を引渡しまで適切に保全する義務」が発生するためです。
損傷が修復可能な場合は、売主が自己負担で修繕を行い、予定通り引渡すことが求められます。一方で、修復が困難なほどの大きな損傷や物件の完全な滅失があった場合は、契約の解除が認められ、売主は手付金などを買主に返還する義務を負うのが一般的とされています。
4. 火事があった賃貸物件では心理的瑕疵以外にも注意しよう
心理的瑕疵に関する告知については前述の通りですが、実は火災物件にはそれだけではない注意点もあります。特にボヤのような軽微な火災でも、内部構造に見えない損傷が残ることがあるため要注意です。
ここからは、火事があった賃貸物件で気をつけるべき点を解説します。
4-1. 物理的瑕疵
火災が発生した賃貸物件では、心理的瑕疵だけでなく物理的瑕疵にも注意が必要です。物理的瑕疵とは、建物や土地に存在する物理的な欠陥や損傷を指し、雨漏りやひび割れ、シロアリ被害、土壌汚染などが該当します。たとえば、ボヤ程度の小規模な火災であっても、消火活動中の放水によって建物内部に水漏れが生じたり、壁や天井に損傷が発生したりすることがあります。
物理的瑕疵は入居者の生活に直接的な影響を及ぼすため、賃貸借契約を締結する前に詳細な調査を行い、必要に応じて修繕を施すことが重要です。さらに、物理的瑕疵が存在する場合、貸主は借主に対してその事実を告知する義務があります。適切な告知と対応を怠ると、後々トラブルの原因となる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
4-2. 隠れた瑕疵
火事があった物件では、表面的にはきれいにリフォームされていたとしても見えない部分に損傷が残っていることがあります。これがいわゆる「隠れた瑕疵」と呼ばれるもので、購入時には外から確認できず、引渡し後に発見される可能性がある不具合を指します。たとえば、火事による高温や水による影響で、壁内部の断熱材が劣化していたり、構造部にひびが入っていたりするケースもあります。
隠れた瑕疵は、売主が気づいていなかった場合でも、売却後に買主が発見すれば売主が不動産契約上の責任を負うことになる場合があるため注意が必要です。場合によっては告知義務違反や契約不適合責任を負わされ、損害賠償請求など法的トラブルに発展する可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
4-3. 契約不適合責任(瑕疵担保責任)
契約不適合責任とは、売買契約に基づき引き渡された目的物が、種類・品質・数量のいずれかにおいて契約内容と異なる場合に、売主が買主に対して負う法的な責任をいいます。契約不適合責任は、2020年4月の民法改正によって従来の「瑕疵担保責任」に代わって導入されたものであり、より広い範囲の不適合をカバーする制度です。
不動産の売買においても、たとえば建物の構造に問題があったり、契約で取り決めた設備と異なる内容で引き渡された場合などに適用されます。買主は契約不適合があると判断した際、修補を求める追完請求や代金の減額、契約解除、損害賠償などの請求が可能です。
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火事があった物件では、たとえ過去のものであっても原則として借主や買主への告知が必要です。火事は心理的瑕疵に該当する可能性が高く、告知を怠ると契約後のトラブルや損害賠償請求につながる恐れがあります。火事の規模にかかわらず、誠実な情報開示が求められます。
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