火災保険は退去時にも利用できる場合がありますが、適用されるかどうかは条件によります。
通常、大家は物件の保全を目的として火災保険に加入していますが、借家人も賃貸物件に入居時には、大家の指示に従い火災保険に加入することが一般的です。その際、借家人賠償責任保険にも加入することが多く、借家人賠償責任保険は借家人が過失で賃貸物件に損害を与えた場合の賠償が主な目的です。
当記事では、火災保険を退去時に使える主な条件などについて、分かりやすく解説します。
1.火災保険は賃貸物件の退去時に使える?
一定の条件を満たす場合において、火災保険は賃貸物件の退去時に発生する原状回復費用の一部として使える可能性があります。まずは、火災保険の基本的な内容と、原状回復の範囲と費用をおさらいしましょう。
1-1.火災保険の基本的な内容
入居者が加入する火災保険には、主に以下の3つの補償が含まれています。
家財保険 |
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家財保険は、所有する家具や家電製品などを対象とした保険です。たとえば、テレビや冷蔵庫、衣類や時計など、引っ越しの際に持ち込んだものすべてが対象となります。もし火事や強風などでこれらの家財が壊れたり焼失したりした場合、新しいものを買い直す費用が補償されます。そのため、家財保険の保険金額は新品の購入費用(新価)を基準に設定されます。 |
借家人賠償責任保険 |
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借家人賠償責任保険は、賃貸物件に住む入居者が過失で大家さんに損害を与えた場合の補償です。たとえば、自分の過失で火事が起きて部屋が焼けてしまった場合、大家さんに対して修理費用を支払わなければなりませんが、この保険があればその費用をカバーしてくれます。多くの賃貸契約で火災保険の加入が必須となっているのは、借家人賠償責任保険が重要であるためです。 |
個人賠償責任保険 |
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個人賠償責任保険は、日常生活で他人に損害を与えた場合の補償です。たとえば、マンションで水漏れ事故を起こして下の階の住戸に被害を与えた場合などがこれに該当します。また、個人賠償責任保険は自宅以外での事故もカバーします。自転車で他人にぶつかってけがをさせた場合も補償の対象です。 |
1-2.原状回復の範囲と費用
国土交通省のガイドラインでは、通常の使用による経年劣化の範囲内であれば、原状回復費用は大家側が負担すると定められています。入居者である借主が原状回復をしなければならない場合は、借主の故意や過失、通常の使用を超えるような使用によって発生した損耗・毀損が見られるケースです。
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」
一般的な、原状回復の費用相場は以下の通りです。
【修繕箇所別の費用相場】
壁紙の張り替え | 約800~1,500円/平方メートル |
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床の張り替え | 約2,500~4,500円/平方メートル |
畳の表替え | 約4,000~35,000円/枚 |
水回り(キッチン・洗面台・トイレ・浴室など)の清掃 | 約5,000~25,000円/部分・箇所 |
エアコン・換気扇などの清掃 | 約5,000~15,000円/台 |
【間取り別の費用相場】
ワンルーム・1K | 約15,000~30,000円 |
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1DK・ 1LDK | 約20,000~40,000円 |
2DK・2LDK | 約30,000~50,000円 |
3DK・3LDK | 約50,000~80,000円 |
4DK・4LDK | 約90,000円~ |
【居住年数別の費用相場】
~3年 | 50,000円程度 |
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4年~6年 | 60,000円程度 |
7年~ | 90,000円程度 |
2.火災保険を退去時に使える主な条件
火災保険は、予期せぬ事故や災害による損害を補償するための重要な保険です。賃貸物件に住む際は、以下の条件を満たしていれば、退去時の修繕費用を保険でカバーできる可能性があります。
2-1.故意による破損や傷ではない
火災保険を利用するには、破損や傷が故意ではないことが重要です。たとえば、自分や家族がわざと壁に穴を開けたり、意図的に家具を壊したりした場合、保険は適用されません。
保険適用が可能な状況としては、風災や水災、盗難などの予期せぬ事故による損害が挙げられます。強風で窓ガラスが割れた場合や水漏れによる壁の損傷などが該当します。
2-2.修理業者から見積もりをとっている
事前に保険会社に相談し、指定された業者からの見積もりが必要か確認しましょう。
火災保険を適用するには、修理業者から破損箇所の詳細や修理方法、使用する材料などが記載された詳細な見積もりを取得する必要があります。見積もりは、修繕費用を算出する基準となり、保険金の額を決定するために使用されます。
複数の業者から見積もりを取ると、適正な修理費用を把握することが可能です。
2-3.傷ができてから時間がたっていない
火災保険を利用するためには、傷や破損が発生してから速やかに保険会社に報告することが求められます。時間がたつと、破損の原因や状況を正確に把握することが難しくなり、保険会社が補償を判断しにくくなります。
傷や破損が発生したらすぐに写真を撮り、保険会社に連絡しましょう。遅滞なく対応することで、保険金の支払いを受けられる確率が高まります。
3.火災保険で退去時の原状回復費用をカバーできる例・できない例
以下では、火災保険でカバーできる原状回復の例とカバーできない例について解説します。具体例をいくつか挙げて紹介しますが、最終的には必ずご自身が加入している火災保険の約款などを確認してみてください。
3-1.火災保険でカバーできる例
火災保険でカバーできる例としては、主に以下の通りです。
・偶発的な事故による破損
火災保険は「不測かつ突発的な事故」による損害をカバーします。たとえば、重いものを床に落としてフローリングが割れた場合や、子どもが遊んでいてテレビの液晶を壊した場合、これらは予期せずに起きた事故として認められることがあります。
・自然災害による損害
台風による飛来物で窓が割れたり、強風で何かが飛んできて家具が壊れたりした場合など、自然災害による損害は火災保険のカバー範囲に含まれることが多いです。
・水漏れによる損害
水道管の破裂や浴室の水漏れなどによるフローリングの水害も、火災保険で補償される可能性があります。
3-2.火災保険でカバーできない例
火災保険でカバーできない例としては、主に以下の通りです。
・経年劣化や日焼けによる損害
経年劣化による壁紙のはがれや色褪せ、畳の凹みなどは火災保険の補償対象外です。これらは通常の使用や時間の経過によるものとみなされます。
・意図的な損害や過失によるもの
入居者の過失や意図的な行動による損害は、火災保険でカバーされません。保険の基本原則として意図的または予見可能な損害は除外されるためです。
・模様替えでの損害
家具の移動や模様替え中に生じた傷や破損も、火災保険の対象にはなりません。予測可能な活動に起因する損害とみなされるためです。
4.火災保険を退去時に利用する際の注意点
火災保険を退去時に利用する際の注意点には、以下の3つの重要なポイントがあります。
・保険請求の期限は3年間と定められている
火災保険の請求権は、損害が発生し保険給付を請求できるようになった時から3年間です。この期間を過ぎると、時効により請求権が消滅します。
したがって、損害が発生したらできるだけ早く保険会社に連絡し、必要な手続きを進めることが大切です。
・免責額が設定されている場合がある
火災保険には免責額(加入者が自己負担する金額)が設定されていることが一般的です。損害額から免責金額を引いた金額が保険金の支払い額になるので、必ずしも退去時に発生した損害の全額が保険から補償されるわけではありません。免責額は各保険会社や保険プランによって異なり、1万円、3万円、5万円…などと設定されている場合があります。
・保険の申請は本人が行う
火災保険の申請は、原則として契約者本人が行う必要があります。代理人が申請する場合でも、その権限が正式に認められている必要があります。たとえば、不動産の大家や管理人が入居者に代わって保険申請をすることは原則として認められていません。
まとめ
火災保険は火災だけでなく、プランによっては、水漏れ、盗難、台風、地震などの自然災害や事故による被害もカバーしています。そのため、居住者が偶発的な事故により家財に損害を受けた場合は、基本的に補償を受けることが可能です。ただし、契約内容によって補償の範囲や条件は異なるため、加入する際は補償内容や免責条件をしっかりと確認することが重要です。
また、免責額が設定されている場合、その額以下の損害は補償されません。たとえば、免責額が10万円であれば、それ以下の損害は自己負担となります。